赤レンガの往時の風合いを再び

 

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

当館の建屋は、赤レンガ造りの壁体に採光を考慮した鋸(のこぎり)型屋根を載せた工場建築です。しかし、トヨタグループ始祖の豊田佐吉が1911年、この地に創設した試験工場は実は木造であったことをご存じでしょうか。1914年に紡績設備導入の際に赤レンガ造りに改築し、豊田自動織布工場から豊田自動紡織工場に改称しました。そこから既に100年以上が経過し、現在に至ります。

当館では、産業遺産ともいえるこの赤レンガの建築群を、ランドマークとして後世に大切に残すことを決め、2017年からは7年計画で修復工事を行っています。5年目の本年は、1月から「動力の庭」の西側壁面で工事を始めていますが、この場所がまさに1914年当時の赤レンガを用いている壁面なのです。

レンガの寿命は長くても100年程度だそうです。戦火も、幾多の地震や台風などにも懸命に耐えてきた当館の赤レンガですが、風化は避けられずその損傷は進んでいます。当館では、修復用のレンガを特注で手配するとともに、割れて撤去したレンガも粉砕して修復や着色用に活かすなど、可能な限り往時の風合いを保つ工夫を重ねています。作業は、修復を開始した5年前から継続して3名のベテラン職人の皆さんが手掛けています。

今回の修復個所は、鋸屋根の跡が残る「映える」壁面です。その味わいを残すために、職人の皆さんは現在も苦労して作業を続けています。名古屋の桜が満開になる頃には、工事用の足場も取れ、修復された全容がご覧いただけるようになるでしょう。どうぞお楽しみに!

      

赤レンガ壁の修復作業(2021年2月2日撮影)