第5話
「タダイマ ハコネヲ コユ」
-苦難を乗り越え完成したA1型乗用車-
劇画05 挙母の工場用地の買収が始まった段階でも、エンジンの鋳造すらできていない。さすがの喜一郎も焦りはじめたが、鋳物工場に入り込んだままの菅たちは、9月になるころようやく、第1号のシリンダーブロックをつくりあげた。9月25日、直列6気筒3389CCの試作第一号「A型エンジン」が完成した。ところが、苦心に苦心を重ねた試作第1号エンジンをシボレーのシャシーに取り付け、試運転をしてみると、手本にしていたシボレーの馬力を出すことができなかった。困難な問題はエンジンばかりではなかった。エンジンの回転を伝達する装置の中で重要な役割を持つギアやボデーについても同様に血の滲むような努力が続けられた。
 10年3月、技術者たちはシリンダーヘッドの形状に改良ポイントの目をつけ、二昼夜ぶっ続けの実験の結果、ようやく納得できる形状をつくりあげた。すぐさま試運転を行うと、馬力テスターは、シボレーを超える65馬力を示した。喜一郎をはじめ全員が子供のように喜んだ。そしてただちにA1型乗用車の本格的な組立が始まった。その夜から自動車組立工場のあかりが消えることはなかった。
 5月、手叩きのボデーにA型エンジンを搭載した「A1型乗用車」の試作が完成した。喜一郎ら3人が乗り込み、刈谷から東京まで試走を行うことになった。A1型は快調に走り続けた。やがて、本社の自動車部に一通の電報が届いた。「タダイマ ハコネヲ コユ」と。