G1型トラックと同い年の文学賞

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

トヨタ初の自動車として「トヨダG1型トラック」が完成した1935年(昭和10年)、この年に創設されたのが「芥川賞」と「直木賞」です。雑誌「文藝春秋」を創刊した作家・菊池寛が、芥川龍之介と直木三十五という亡き親友ふたりを偲ぶために創った文学賞で、現在では広くその存在が知られています。

「芥川賞」は雑誌に発表された、新進作家による純文学の中短編作品から選ばれ、「直木賞」は新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本から選ばれます。選考は年2回(7月と翌1月)行われ、例年、上半期の芥川賞受賞作は「文藝春秋」9月号に全文が掲載されます。毎回、文学界で大きな注目を集めますが、2025年上半期(第173回)は芥川賞、直木賞ともに該当作なし、とされました。両賞ともに該当作がないのは27年ぶりだそうです。

90年に及ぶ両賞の歴史の中で、私の記憶にあるのはこの40年ほどです。芥川賞では、村上龍「限りなく透明に近いブルー」(1976年)、松村栄子「至高聖所アバトーン」(1991年)、平野啓一郎「日蝕」(1998年)、直木賞では、つかこうへい「蒲田行進曲」(1981年)、村松友視「時代屋の女房」(1982年)、東野圭吾「容疑者Xの献身」(2005年)などが印象に残っていますが、最近の受賞作品を読んでいないことも分かります。

昨今、読書離れやデジタルデバイスの普及による電子書籍への移行などで、文学界や出版業界は大きな変化の中にあります。芥川賞と直木賞は書店にとっては大きな話題提供の機会だっただけに、該当作なしは残念な出来事ですが、候補作品を含めて多くの書籍が店頭に並んでいます。残暑厳しい折、書店に涼みに入った際には、文学の書棚の前で本を選ぶ心の余裕を持ちたいものです。

(参考資料:公益財団法人日本文学振興会ウェブサイト https://bungakushinko.or.jp/)

歴代受賞作品の一部