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館長コラム

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2024年3月の館長コラム

2024年3月1日

後方支援のリーダーシップ

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

東日本大震災から今月で13年。震災の年(2011年)からトヨタグループが岩手県で実施した復興支援活動を、一貫して支えていただいた恩人のひとりが、同県住田(すみた)町の町長を務めておられた多田欣一さんです。災害ボランティア宿泊施設のご提供だけではなく、時にご自宅で町の皆さんとの交流会を催していただくなど、細やかなお心遣いをいただきました。2015年にトヨタの豊田章男社長(当時)が住田町に伺った際にも、町内の仮設住宅団地で入居者の皆さんとの交流を図っていただき、支援活動の継続につながりました。

住田町は、地震と津波で大きな被害を受けた陸前高田市と大船渡市に隣接する、農林業中心の町です。この2市1町は「気仙地域」として歴史的に関わりが深いことから、山あいにあって津波の被害を免れた住田町が、両市の後方支援に立ち上がりました。その中心になったのが、当時町長であった多田さんです。多田さんは、町民の安否確認と災害弱者の安全を確保した後、甚大な被害を受けた両市への救援物資輸送や炊き出しを主導。そして後に全国に知られた「一戸建て木造仮設住宅」の建設を卓越したリーダーシップで実現し、被災された方々の生活再建に尽力されました。

多田さんは2017年に、4期16年務めた町長職から勇退されました。未曽有の災害に対し、時として行政の常識にとらわれず即断即決で後方支援を推進した指導力は、長く語り継がれるでしょう。多田さんは、当時の失敗談を含めて同年に著作(木下繁喜氏と共著)をまとめておられます。本年1月の能登半島地震からの復旧・復興にも、この後方支援の知見が大いに役立つと信じます。

【参考文献】多田欣一・木下繁喜『東日本大震災 住田町の後方支援』2017年、はる書房

後方支援を指揮した多田欣一住田町長【写真左】

(住田町役場、2011年5月撮影)

 

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