館長コラム
2024年11月の館長コラム
2024年11月1日
「四千万歩の男」の生き方
トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。
現在当館は「企画展の秋」を迎えています。先月の「FUN TO DRIVE」企画展に続き、今月はトヨタコレクション企画展をご紹介します。トヨタコレクションは、日本のモノづくりの源流ともいえる、主に江戸時代中期から明治時代初期の貴重な科学技術資料で、その散逸を防ぐためにトヨタ自動車が社会貢献の観点から1999年に取得したものです。
今回企画展のテーマは「測天量地(そくてんりょうち)」。天を測り、地を量るという、測量の技術が中心です。測量と言えば、地図。井上ひさし氏の長編歴史小説「四千万歩の男」の主人公であり、今回の企画展でも取り上げた伊能忠敬(いのう ただたか)は、日本における地図の父として知られていますが、50歳で家督を息子に譲るまでは地図づくりとは無縁でした。
忠敬は隠居後、天文暦を学ぶために江戸で幕府天文方に弟子入りし、蝦夷地に赴いて日本初の実測図を完成させます。その後、73歳で亡くなるまで全国を測量し、忠敬亡き後に弟子たちが日本全図を完成させました。先達から情熱と技術を受け継ぎ発展させた人々の執念が、後世に繋がる事業を成し遂げたことは、当館の繊維機械や自動車と同じだと感じます。また、無私に徹した第二の人生で、偉大な業績を遺した忠敬の生き方は、現代を生きる私達をも鼓舞するように思うのです。
【参考資料】鈴木一義監修「八百八知恵 江戸の科学」宝島社、2016年、p.60-63
トヨタコレクション企画展 測天量地
これまでの館長コラムはこちら:バックナンバー