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館長コラム

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2025年11月の館長コラム

2025年11月1日

もはや電話機は、電話機ではない?

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

1984年にトヨタ自動車に入社し、新入社員研修後の11月に本社広報部へ配属されて驚いた事のひとつが、デスクの電話から市外通話ができないことでした。当時は社内の電話交換室に内線で電話番号を伝え、つないでもらっていました。とても不便でしたが、一方でぬくもりも感じました。

グラハム・ベルが電話機による通話に成功したのは1876年、日本で最初に電話サービスが開始されたのは1890年のことです。1896年に導入されたデルビル電話機は、永久磁石を用いた手回し式交流発電機搭載の「磁石式電話機」で、当時の標準方式となりました。長く日本では電話機の設計技術は外国製を模倣していましたが、終戦後に急速に進歩し、1985年に市場が開放されると電話機は多くのメーカーがしのぎを削る家電製品に転換。通信技術の進展とともに、1990年代以降は個人向けの携帯電話、スマートフォンという社会生活に不可欠な情報端末に変貌しました。スマホに至っては、もはや電話機とは呼べないかも知れませんね。

現在当館では「手動から電動への歩み」をテーマとしたトヨタコレクション企画展「風人雷人」を開催中です。電信機・電話機などの「伝える製品」の電動化についてもご紹介しています。技術の進化には先人の知恵と工夫が詰まっています。ぜひご覧ください。

(参考文献:国立科学博物館「技術の系統化調査報告」第30集、2021年3月、p.230-235)

デルビル卓上電話機(明治中期、トヨタコレクション)

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