障子を開けてみよ、外は広いぞ

 

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。トヨタグループ始祖の豊田佐吉翁は、今から100年ほど前、中国への進出を強く願って上海に渡りました。この時、反対する周囲の人々に「障子を開けてみよ、外は広いぞ」と語ったと言われています。「狭いところにじっと閉じこもっていては駄目だ。外の世界に向かって飛び出そう」という意味だとされています(那須田稔「豊田佐吉ものがたり」2016年、静岡県湖西市発行)。

その佐吉翁の長男である喜一郎氏が自動車の生産を始めた愛知県豊田市では、2009年に官民協同で「豊森(とよもり)」というプロジェクトがスタートしました。高齢化、過疎化、人口減少などで衰退が進む農山村で、地域を担う人材を育成し、地域を活性化しようという取り組みです。呼び掛けたのはトヨタ自動車の社会貢献推進部で、私も実行委員として10年以上に渡って携わっています。

企業の社会貢献活動は、企業の強みを発揮できる領域(モノづくり、環境教育、ボランティアなど)で取り組むことが定石です。ただ、多様化・多層化する社会や地域の課題を解決するためには、あえて「障子を開いて」未開拓の分野に挑戦することも必要だと思います。国連のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが各界で注目されている現在、あらゆる分野で佐吉翁が語った「外に向かって目を向ける」姿勢が求められていると感じています

豊森プロジェクトの中核である人材育成講座「豊森なりわい塾」は、これまでの九期で約220名の卒塾生を地域に送り出しています。この中には50名以上のトヨタグループの社員も含まれていて、農山村に移住して地域の活力を支えている人たちも少なくありません。モノづくりをしながらも愛着のある地域に目を向ける、こんなところにも佐吉翁の思いが脈々と受け継がれていると感じます。

 

        

豊森なりわい塾のフィールドワーク(2014年5月、愛知県豊田市)