逝きし世の面影

 

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

私が当館に異動する前、トヨタ自動車の社会貢献推進部で担当していた業務のひとつに「豊森なりわい塾」という人材育成講座がありました。受講生を公募し、愛知県豊田市の中山間地域に集まって、持続可能な社会や地域について学びながら、自らの生き方を見つめ直そうというユニークな社会貢献プログラムで、2009年5月から通算十期・13年継続し、本年5月に終了しました。

この「豊森なりわい塾」の澁澤寿一塾長(NPO法人 共存の森ネットワーク理事長)が、毎年の講座で必ず引用される資料の一つに、渡辺京二氏の「逝きし世の面影」(1998年葦書房、2005年平凡社)があります。日本近代史家である著者が「滅んでしまった古い日本文明の在りし日の姿を、異邦人の証言を頼りに偲んだ」とする労作です。18世紀から19世紀にかけて確かに存在した日本の生活様式や人々の暮らしが、日本を訪れた外国人が残した手紙等によって鮮やかに描かれています。

この資料を読み返すと、単に江戸時代は良かったということではなくて、これからの時代に何を大切にして暮らしをつくっていくのか、幸せとは何かをあらためて考えさせられます。著者の渡辺京二氏にもご協力をいただいたトヨタコレクション企画展「うつす展 江戸から未来へ、映す、写す、移す。」を当館で開催中です(12月18日まで)。現代を生きる私たちが、未来を見つめるきっかけになればと思います。

 

トヨタコレクション企画展に出展中の着色古写真から