快適なドライブを支えるカーエアコン

 

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

梅雨が明ければ、夏が到来。これからの季節に欠かせないカーエアコンは、私がトヨタ自動車に入社した1980年代には、標準装備ではなくオプション(選択・後付け)扱いでした。入社直後の販売実習でご縁を頂いたお客様が販売店に乗って来られた車には、クーラー機能がなく、服の背中に大きな汗の跡があったことを鮮明に覚えています。カーエアコンがほぼ標準装備となったのは1990年代に入ってからで、現在はオートエアコンが車両の生産時に組み付けられることが一般的です。

カーエアコンは、空気を冷却するエバポレータ、加熱するヒータコア、送風機などがHVAC(Heating, Ventilation and Air-Conditioning)ユニットとして車室内に置かれています。コンプレッサ(圧縮器)で圧縮されたガス冷媒が、コンデンサ(凝縮器)で外気と熱交換されて液冷媒となり、これが減圧される際に周囲の空気と熱交換を行うことにより蒸発潜熱が奪われ、周囲は冷却されます。この熱交換がエバポレータで行われることにより、車室内の空気を冷却します。一方、空気の加熱は、エンジンの廃熱であるラジエータの冷却水(90℃程度)を利用しています。冷却水と空気をヒータコアで熱交換させることで温風を出す仕組みです。

グローバルに環境意識が高まる中で、デンソーなどメーカー各社は、エネルギー効率の向上や小型軽量化に取り組んでいます。大気中の熱を利用し、暖房の熱エネルギーとして活用することで電気自動車やプラグインハイブリッド車の航続距離を延ばす技術も実用化されています。エンジンを持たない電気自動車は、バッテリーが唯一のエネルギー源であり、必要なエネルギーを最小化することに加え、効率良くエネルギーを回収し使い切ることで実用性が向上します。カーボンニュートラルに向けて、カーエアコンの技術進化が果たす役割はまだまだ多いのです。

【参考資料】自動車技術会『自動車技術ハンドブック10 生産・品質編』、2016年、p.306-307

車室内のカーエアコンユニット模型(デンソーギャラリーにて)