常に「未完」である ~開館28周年に寄せて~

 

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

当館は、トヨタグループ13社(現在は17社)の共同事業として、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏の生誕100周年にあたる1994年6月11日に開館いたしました。今月、当館は開館28周年を迎えます。これまでお越しいただいた657万人を超えるお客様に心から感謝申し上げます。

約30年前、当館建設の企画段階で、喜一郎氏の長男であるトヨタ自動車の豊田章一郎社長(当時、現名誉会長、当館理事長)から「若い人々に現在の“モノづくり”の技術を理解していただけるようにして欲しい。ただ、今の技術は大変分かり難い。これは世の中のこと全てに言えることであるが、過去の歴史をさかのぼって見ると、現在が理解しやすくなる。今の技術を理解するためには、過去の技術を段階を追って見られるようにするのが良い」という趣旨の助言がありました。加えて「現在の技術を展示するのであるから、技術が進歩する限り産業技術記念館の展示は完結することがなく、常に“未完”である」と、開館がゴールではなくスタートであることを指摘されたそうです※。

「常に未完である」という重い言葉に、館長として、先人達の大変な苦労が技術の進歩をもたらし、それが産業の発展を促したことを広くご理解いただく努力を重ねる覚悟を新たにいたしました。

開館した28年前に思いを馳せつつ、気持ちも新たにお客様をお迎えいたします。どうぞよろしくお願いいたします。

※齋藤謹吾「産業技術記念館について」産業考古学会『産業考古学』88号、1998年、p.8-14

 

トヨタ産業技術記念館の完成披露式典(1994年6月)