博物館とウェルビーイング ~開館29周年に寄せて~

 

トヨタ産業技術記念館 館長の大洞和彦です。

5月18日はICOM(国際博物館会議)が提唱する「国際博物館の日」でした。例年、記念事業が世界各地で開催されますが、今年のテーマは「ミュージアム、サステナビリティ、そしてウェルビーイング」。サステナビリティは「持続可能性」として今や日本でも定着した感がありますが、ウェルビーイングはまだ聞き慣れない言葉かも知れません。心理学の研究者は「幸せ」と訳すようです。

幸福学研究の第一人者である慶應義塾大学大学院の前野隆司教授は、ウェルビーイング(well-being)について「狭い意味での心身の健康だけではなく、心の豊かな状態である幸福と、社会の良好な状態をつくる福祉を合わせた、心と体と社会の良い状態」と述べています。

日本博物館協会とICOM日本委員会は、今年のテーマについて「博物館はあらゆるコミュニティの持続的な発展、そして個々人の幸福に大きく貢献できる存在であり、さまざまな方法で持続可能な開発目標の達成に貢献できる」と説明しています。本年4月に施行された改正博物館法では、従来は社会教育機関とされた博物館に、観光やまちづくりなどの中核となることを期待しています。このように社会からの要請が多様化・高度化する中で、博物館も変わらなければならないのだと、私自身は認識しています。

当館は本年6月11日に、開館29周年を迎えます。1994年6月の開館以降、ご来館いただいた累計680万人を超えるお客様に心からお礼を申し上げるとともに、来館される方々の「学びとウェルビーイング」に貢献できるように、これからもチャレンジングな活動を進めてまいります。

【参考資料】前野隆司・前野マドカ『ウェルビーイング』日経文庫、2022年、p.17

トヨタ産業技術記念館の完成披露式典(1994年6月)